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赤猫丸平の片付かない部屋

Une chambre mal organizée

能町みね子『お家賃ですけど』に登場する神楽坂(駅)界隈の店・場所と若干の私註

能町みね子『お家賃ですけど』(文春文庫)1

能町みね子『お家賃ですけど』(文春文庫、2015年、単行本、2010年)、226頁、ISBN:978-4167904302。2015年9月28日読了。

  • 「神楽坂ディ プラッツ」という劇場(17頁、以下、頁数は文庫版による。) →2012年7月に閉館した小劇場「神楽坂 die pratze」。新宿区西五軒町2-12。
  • 「いま「神楽坂に住んでいます」と言ったときに「いいところですね!」と返されるのはどうにも面映ゆく、「神楽坂駅のそばです」とか「牛込って言われるようなところです」とか、ついぼかしてしまうのです。」(22頁) →実際、地下鉄東西線の神楽坂駅と本来の神楽坂はけっこう離れており、神楽坂を散策するには隣の飯田橋駅のほうが便利であろう(神楽坂下に飯田橋駅の地上出口がある)。「加寿子荘」のある矢来町のあたりは静かな住宅地であり、商業地区である神楽坂とは趣が異なる。なお、神楽坂を含む新宿区東部には地名整理の荒波を逃れた古い地名がよく残っており、矢来町もそのひとつである。
  • 金成湯(46頁) →風呂なしアパートである「加寿子荘」の最寄の銭湯。新宿区中里町13。この銭湯の定休日である金曜は、竹の湯(改代町2、土曜定休)、あるいは第三玉の湯(白銀町1-4、水曜定休)まで行くことになる。
  • 牛込の警察(48頁) →牛込警察署。新宿区南山伏町1-15。大久保通りの北町交差点あたりは新宿区の前身である牛込区の中心であり、区役所、警察署などが置かれていた。「牛込」の名は、「牛込箪笥地域センター」、「牛込神楽坂駅」などに残る。
  • 「「書斎カフェ」なる看板を発見し…」(48頁);「ここは、すべての部分がいまいちを抱え、そのいまいちが合わさった結果生まれた楽園です。」(127頁) →「キイトス茶房」。新宿区箪笥町25 野吾ビル2階。
  • 「そういやむかしは津久戸町のあたりにもあったはずだけど…」(66頁) →大久保通りの築土八幡町交差点近くにあった「吉野家・神楽坂店」。新宿区津久戸町3-12。本文にあるとおり、現存しない。
  • 河合陶器店(78頁) →新宿区神楽坂5-13。
  • 比丘尼坂(95頁) →早稲田通りより天神町と矢来町の境界を北に下り、途中、鍵の手に折れて中里町に至る坂道。
  • 朧坂(95頁) →早稲田通りより矢来町122と123の間を北に下る短い坂道。西側に中華料理店の「りゅうほう」がある。
  • ムギマルカフェ(96頁) →現在の店名は「マンヂウカフェ・ムギマル2」。新宿区神楽坂5-20。
  • 「ムギマルカフェの裏にある、縦に大きいばかりの下品なマンション」「男性器のようにそそり立っている」「見るたび爆破したい」…(96頁);「さんぽの似合う、視線の低い街にむりやりこじ入れられた棒状体」「風景に決して入れたくない、はしたない大きさ」「以前から私が意識的に嫌っている物体」(146頁);「しかし一方であの棒を、あるいはあの棒の中で生活をすることをセンスのいいことと信じている人が確かに存在するからこの地にあの棒が勃(た)つに至ったのであって…」(147頁) →地上26階のタワーマンション「神楽坂アインスタワー」。2003年2月竣工。新宿区神楽坂5-20-5。
  • ピンク映画館(96頁) →「くらら劇場」。新宿区神楽坂2-19 銀鈴ビル地下。
  • 「矢来町の一等地にあった小さな洋菓子のお店」(103頁) →「ジュアール」。新宿区矢来町127。現存しない。直後の本文中で言及されているように、跡地には「サンヴァーリオ神楽坂」という14階建のペンシルマンションが建つ。「加寿子荘もそこのせいで朝少し翳るようになるかもしれない」(104頁)という記述は「加寿子荘」の所在地を示唆する。
  • 「カド」(104頁) →古民家を利用した和食店。新宿区赤城元町1-32。
  • 「蕎楽亭」(104頁) →そば店。2005年5月に市ヶ谷から現在地に移転した。新宿区神楽坂3-6。
  • 「坂の途中の、通寺町の荒物屋」(127頁) →通寺町とは神楽坂6丁目の旧地名。「田村金物店」(新宿区神楽坂6-64、現存しない。)か?
  • 朝日坂(127頁) →神楽坂6丁目の早稲田通りから横寺町にかけて南西に上る坂。
  • 袖摺坂(127頁) →横寺町と箪笥町の境界を大久保通りに下る坂。大久保通りの直前で幅の狭い階段となる。
  • 裏通りのチーズ屋さん(128頁)→チーズ専門店の「アルパージュ」。新宿区神楽坂6-22。「チーズ屋さんは好きなのに、お客さんの所得が高そうなのが…」(128頁)。
  • 赤城カフェ(144頁)→赤城神社の旧社務所の2階に期間限定で営業していた。「雑然としたこの界隈には珍しく鬱蒼とした木々の残るところ」(143頁)であった赤城神社の風景は、「わたし」の願い(144頁)むなしく、その後の全面改築で失われてしまった。
  • 「この翌年に神楽坂を舞台としたドラマが放映され…」(145頁) →2007年1月から3月までフジテレビ系で放映された「拝啓、父上様」(主演:二宮和也)。この頃から神楽坂の観光地化が急速に進んでいった。
  • 坂の下にある一戸建ての喫茶店(145頁) →山小屋風の建物が印象的であった喫茶店「巴有吾有(パウワウ)」。新宿区神楽坂2-7。2006年12月に閉店、再開発により一帯は東京理科大の複合施設「PORTA(ポルタ)神楽坂」(2011年3月竣工)となった。「坂の下の喫茶店については、その並びの一帯が近いうちに取り壊されて、通りの奥にある私立大学が土地を買い占め、キャンパスに充てるらしいという噂を聞いた。」(147頁)との記述は正しかったことになる。
  • 「いまや神楽坂通りでは唯一となってしまったレコード店」(145頁) →「大洋レコード」。新宿区神楽坂3-2 宮坂ビル4階。2009年9月、入居していたビルの取り壊しに伴い矢来町162に移転、さらに2010年12月、矢来町139に再移転。
  • 佃煮の有明家(170頁) →新宿区神楽坂6-14。2006年末頃閉店。
  • 「…その途中、戸の閉まっている畳屋の軒先の…」(174頁) →「山形屋・小関畳店」(新宿区天神町30)と思われる。
  • 「加寿子荘」のその後 →グーグルストリートビューの履歴をたどると、2013年7月の時点で建物は残っていたが、2014年3月に改築工事中、2015年6月には新築の3階建となっている。公道側から見ると個人の一戸建てのようであるが、側面の路地(隣家が建て替えた際にアスファルト敷きに「無断で勝手に変えられた」ところ(206頁)。もっとも実際の権利関係は不明。)に多数のガスメーターが並んでいることから、賃貸物件も兼ねているようである。しかし、公道側に個人の表札があるのみで、物件名らしきものは見当たらない。つまり、いまだ「加寿子荘には本名がない」(12頁)。

能町みね子『お家賃ですけど』(文春文庫)2bis

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